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最高裁判所第一小法廷 昭和53年(オ)190号 判決

上告人

青山好雄

右訴訟代理人

景山米夫

被上告人

青山尚正

右訴訟代理人

野島達雄

大道寺徹也

打田正俊

在間正史

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人景山米夫の上告理由一について

民法一〇三一条所定の遺留分減殺請求権は形成権であつて、その行使により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に遺留分権利者に帰属するものと解すべきものであることは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和四〇年(オ)第一〇八四号同四一年七月一四日第一小法廷判決・民集二〇巻六号一一八三頁、最高裁昭和五〇年(オ)第九二〇号同五一年八月三〇日第二小法廷判決・民集三〇巻七号七六八頁)、したがつて、遺留分減殺請求に関する消滅時効について特別の定めをした同法一〇四二条にいう「減殺の請求権」は、右の形成権である減殺請求権そのものを指し、右権利行使の効果として生じた法律関係に基づく目的物の返還請求権等をもこれに含ましめて同条所定の特別の消滅時効に服せしめることとしたものではない、と解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同二について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、民法一〇四〇条の規定を類推適用して被上告人の本件遺贈の目的の価額弁償の請求を認めた原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(本山亨 団藤重光 藤﨑萬里 中村治朗 谷口正孝)

上告代理人景山米夫の上告理由

一、原判決は、遺留分減殺の意思表示したことを認めるが、この意思表示は昭和四八年五月下旬か又は同年九月一〇日の調停期日に上告人に到達したとする。

民法第一〇四二条は、減殺権とその行使によつて生ずる返還請求権を一体として一年の短期消滅時効にかかると解すべきである。

従つて被上告人の前述減殺の意思表示から一年は、昭和四九年九月一〇日である。

被上告人が、本訴提起したのは、昭和五〇年四月一一日である。従つて被上告人の本訴の請求は時効により消滅している。

二、民法第一〇四〇条の解釈につき、原判決は、判決に影響を及ぼすこと明らかな違法がある。

(イ) 被上告人は、受遺者であつて、条文上の根拠がない。

(ロ) 本条の趣旨は減殺対象物件が第三者に渡つたときは、この第三者への追及を制限するという規定である。

被上告人は第三者ではなく、本条の他人に含まれない。

被上告人は訴状第二目録記載の物件を自己の名義に移転登記している。従つてその物が自分のところにあるのであるから、その他に価額弁償をする理由はない。原判決は価額弁償を認めるが不当である。

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